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アンティークのある暮らし
●貫入の発生 貫入について一般的かつ経験的な知識しかなかったのですが、貫入の専門家(陶磁器を製造するときに発生する貫入を研究されている方)とお話するチャンスがあり、また資料等をご教授いただき「貫入」について詳しく調べることができました。 伺ったお話、資料を、なるべくわかりやすくまとめてみました。(もっと詳しく科学的に知りたい方に、参考文献を文末に挙げておきました。) 貫入とは、素地に引っ張られて釉層が切れて、ヒビが入る現象ですが、そのメカニズムより大きくわけて「直接貫入」と「経年貫入」の2つがあります。この2つの貫入の違いとそれぞれの挙動をはっきり理解しておくことは、アンティークの陶磁器を扱う上で大切だと思います。 ◎貫入とはどんなものなのか?(実例画像はこちら) ◎貫入の模式図↓↓ ![]() 陶磁器の断面図を見ると・・・陶磁器は素地と釉の2層でできています。(釉は素地の上に0.1〜0.3mm程度の薄い層で、素地に焼きついている。) 釉にひび割れがはいるのが貫入です。 ●直接貫入とは 高温で素地の上で解けて一体となっていた釉は冷却の際、素地より大きく収縮すると、常温では釉に引張の力が働き、釉は切れてヒビが入ります。これが「直接貫入」といわれるものです。 意図的に直接貫入を発生させて美しい亀甲模様を作り出している和陶の商品もありますし、中国、日本の古美術品では、貫入はあって当たり前としてその価値を下げるものではありません。 一方現代の洋食器のディナーセットでは、商品としては「直接貫入」「経年貫入」のいずれであれ、技術未熟にある不良品とされてしまいます。 ![]() @ 常温での釉、素地それぞれの寸法関係 A 素地の上に焼きついている釉の受けている応力の状況 B 引張応力に耐えかねて釉が切れ、貫入が発生し、応力が開放される 貫入がはいるもの、はいらないものは「釉応力」(引張か圧縮か)を測定することによって知ることができます。 その詳しい測定値については『セラミック工学ハンドブック』参照 釉応力が圧縮応力であった場合は貫入は入らず、引張応力であったら・・・(1)すでに貫入が入っている(2)ちょっとした刺激(コツンとあてたり、熱を加えたり)で今すぐ入る可能性がある(3)今は入らないけど、将来的には入る といったように、貫入が発生するのです。 ただ、「釉応力」を測定するためには、これは陶磁器を切り出して、試片を測定するしかありません。また測定してもらったとしても、そのお皿はダメになります。私たちが「目でみて」判断することはほぼ不可能です。 つまり貫入が入っていないものは、これから絶対貫入が入らないとはいうことはできません。(※もちろん入らないものもあります。圧縮応力をうけて貫入が入っていないものは永遠に入らない。)直接貫入が入るかどうかは、焼成して窯から出し冷却したときに、すでに「素質」がきまっています。入る時期は冷却した直後から数年後まで幅があります。 これは先ほども述べた「釉応力」がどれだけであるか、ということで決まります。釉に引っ張りの力がかかっているものは、釉薬のガラス層がすぐ切れるまたは、いつかは切れて貫入の発生となります。 ●経年貫入とは これは、窯出し直後にはなんの異常もないのに、数年後〜と時を経ると貫入が発生する現象です。 アースンウエア(陶器)等、吸水性のあるものに発生しやすい欠陥です。 ![]() @窯だし直後の常温での釉、素地それぞれの寸法関係 A窯だし直後、素地の上に焼きついている釉の受けている応力の状況。 上記のような寸法関係にあるとき、窯だし直後は釉は圧縮応力を受けているため、この陶磁器は貫入に対してきわめて安全な状態にある。 B(陶器、半磁器等)に貫入が発生。 素地に数%の吸水率を持ち、気孔を有する陶磁器の焼き物は、長年の間に空気中の水蒸気と反応して、素地は少しずつ膨張して寸法が大きくなります。これが水和膨張といわれる現象です。(※その水分はどこからはいるのか?・・・高台(フットリング)や目跡のように釉がかかっていないところから水分が浸入するのです。) 一方ガラス質の釉は水和膨張しないので、釉と素地の寸法関係は何年も経過するうちに釉より素地のほうが大きい関係に変化し、釉は引張応力を受けて貫入が発生します。これが経年貫入です。 (※磁器、ボーンチャイナ等は素地の吸水率がゼロなので水和膨張は起こらず、何年たっても貫入がはいらない。ただし窯出し直接貫入がはいったものは存在する。) ●どうして貫入がはいったものと、はいっていないものがあるの? 現在は研究・製造技術が向上したため、「貫入の発生しない陶磁器」をつくれる割合が格段に高くなりました。事実、製造直後の陶磁器に半年や一年後に貫入がはいれば、それはメーカーの不良品として扱わます。破棄処分されます。 数十年前には半磁器を製造していたメーカーの多くはこの経年貫入の発生を解決できず、事業閉鎖や倒産に見舞われたようです。多くの大学やメーカーの窯業技術者がこの経年貫入解決のために研究に熱心に取り組み、オートクレーブによる高温、高圧の水蒸気処理が短縮テストとして有効なことがわかりました。1977年には、釉の受けている応力の大きさを直接光学的に測定する方法が発表され、1978年には水和膨張の進行による応力の劣化状況がわかるようになり、経年貫入防止に関する研究は急速に進展。現在一流メーカーの製品であれば、数十年前の半磁器にくらべて貫入防止の技術が格段に向上しているわけです。 スージークーパーのような半磁器が製造されたときは、まだこうした経年貫入に対する技術は完成されておらず、たまたま短時間で経年貫入がはいらなかったもののみが、破棄されることなく現代まで残ったものと考えられます。したがって、私たちが現在手にしているスージークーパーなどの半磁器は、こうした幸運にめぐまれて遺された貴重な「文化遺産」といえるのかもしれません。 しかしなんといっても製造後70年もたっているものです。いつ経年貫入が入ってもおかしくありません。 たとえば1930年製の70歳の新品同様の貫入の入っていないスージークーパーがここにあったとします。しかし、水和膨張の進行が遅く、釉にまだわずかながら圧縮応力がかかって貫入に対して安定な状態にあるのか、はたまた、水和膨張が大きく進み、釉に引張応力がかかっているにもかかわらず、みかけ上貫入がはいっていない不安定な状態なのか、外見では誰にもわかりません。(テストピースを切り出して釉応力を測定すれば簡単にわかりますが、商品を破壊しては意味がありません。) もし後者だった場合、棚に大切に飾っておいても、ある日、自然に貫入が発生することはおきえます。また、電子レンジをかけたり、熱湯を注いだり、急冷したりすると、その刺激により一挙に貫入が発生することは充分考えられます。 前者もさらに5年、10年後になったら貫入が発生するかもしれません。 ●アンティーク陶磁器と貫入 今アンティークとして売買されているものは、貫入がはいったり、入っていなかったり、また時間がたつと貫入が入ったり、ひどくなったりする事例が多々起こるということは、直接貫入、経年貫入のメカニズムを知ることで理解していただけたとおもいます。スージークーパーの半磁器のように吸水性のある焼き物は年をとると、水和膨張による経年貫入がでてくるのは本質的に避けられません。 「貫入は絶対いや」という方がいらっしゃいますが・・・こう考えてみてはどうでしょう。 製造後30年毎日のように使用した半磁器に経年貫入が発生したら「ここまで耐えてたのだから、まあ許してやるか」またもしも製造後70年たったものであれば「よくここまでがんばったね。ご苦労様でした。老後も大切にしますからね。」という気持ちです。 スージークーパーの陶磁器に70歳という年相応の経年貫入がはいっていたとしても、鮮やかな絵柄と美しいフォルムはは現代においてますます輝いているように思います。こうしたアンティークは年相応の優しい取扱いをしてあげることが一番だと思います。 若い人に混じって100メートルを全力疾走することはもう出来ないのです。 アンティーク陶磁器には、貫入のようなウィークポイントがありますが、現代陶磁器にない素晴らしさを持っています。これらを正しく理解した上で、お手持ちの「文化遺産」を優しく取り扱っていただき、末永くその優美さをめでてくださることを心より願っております。 (参考文献) 『セラミック工学ハンドブック(第2版)』 社団法人日本セラミックス協会 2002年 技報堂出版 『窯業協会誌』Vol.85 1977年 『窯業協会誌』Vol.86 1978年
updated[2003/2/27]
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